Essay

スマホがない一日

スマホを家に忘れてしまった。

早朝、家を出てすぐに気づいたけど、パン屋のパートの時間が迫っており、取りに戻る時間はない。ひとまず、このままパートを済ませてしまおうと歩き出した。

パン屋ではスマホを全く見ないので不便はない。

パンの成形をしながら、この後の動きでスマホを使う場面がないか、頭の中でシミュレーションしてみる。

この後は、電車に乗って、コワーキングスペースで本業の仕事をする。

パン屋の日は、6時前に起きて朝ご飯を食べずに出勤するので、終わった後はお腹ペコペコ。

今日のお昼は、コワーキングスペースに併設されている丼屋さんで、日替わりのカレー丼を食べると決めているし、仕事中につまむチョコレートも調達したい。

ひとまず、カードも入った財布を持ってきているので、買い物は問題なし。

電車は、モバイルSuicaがないと不便だけど、メインのカードがJALカードSuica(オートチャージ)なので、それを使えば問題なし。

あとは、パソコンも持ってきているので、この後行くコワーキングスペースでの仕事も、問題なし。

パソコンがあれば音楽も聴けるし、YouTubeも見られる。LINEのアプリも入っているので、連絡もそこそこ取れる。

あ!コワーキングスペースのチェックインは、スマホに入っているアプリでしなければならない…。まあ、これも受付で事情を話せば入れるはず。

うん。スマホがなくてもなんとかなりそう。パン屋の後、一度帰宅するのはかなり面倒なので、今日はこのままスマホなしで過ごしてみよう。

パン屋が終わり、手元にJALカードSuicaを握り締め、改札をくぐる。

そうか、移動中に音楽やPodcastを聴けないのか。ちょっと物足りないな。静かな駅で、ボーッと電車を待つ。足元に、ガラスの天井から陽の光が降り注ぐ。立ちっぱなしで疲れたふくらはぎが、じわっと暖かくて心地良い。

電車が来た。空いてる席に座るけど、スマホがないので手持ち無沙汰。周りを見渡すと、ほぼほぼ、みんなスマホをいじっている。あ、一人だけ本を読んでいる人がいる。本があればよかったな。スマホを忘れた時のために、文庫本でも持ち歩こうかしら。

ふと、携帯電話なんてなかった10代の頃までは、移動中に何をやってたんだっけ?と考える。高校生の時は、いつも眠かったから寝ていたんだっけ。友達と一緒だったから、ずっと喋っていたんだっけ。でも、一人で眠たくない時は、何をしてたっけ。

思い出そうとしても、全然思い出せないし、何をしていたか想像できない。

景色でも見て、考え事でもしてたのかもしれない。それこそ、本を読んでいたこともあったかも。あ、音楽はCDウォークマンやiPodで常に聴いていたな。ちょっと思い出してきた。

今は、考え事も音楽も、スマホの画面を見ながらだな。考えてるんだか、聴いているんだかわからない感じで、どっちつかず。スマホの画面だって、見たくて見ているというより、何となく流れてくるニュースを見たり、無意識にSNSのアプリを開いて目に入ってくる投稿を見たり、見ても見なくても良いのかも。

たまにスマホを持たずに出かけてみると、頭がすっきりしたりするのかな。考えるなら考えるだけ。聴くなら聴くだけ。うん。良いかもしれない。

そんなことを考えていたら、目的の駅にあっという間に到着。

コワーキングスペースで受付の人にスマホを忘れてチェックインできない旨を話して、チェックイン作業をしてもらう。

空いているデスクを見つけて、荷物を置いて、パソコンを開く。デジタルな画面を見て、ちょっとホッとする。

ひとまず、LINEのアプリを開いて連絡が来ていないかチェック。登録している飲食店や有名人のLINE投稿以外は、誰からも連絡が来ていない。意外とそんなもんだよね。

SNSもパソコンで見てみようかな。ログインしようとすると「携帯番号にワンタイムパスワードを送りました」と出てくる。あら、これは見られないや。まあ、良いか。

お腹空いたから、ひとまず楽しみにしていたカレー丼を食べよう。PayPayが使えないから、JALカードSuicaで決済して、黙々と食す。そういえば、もうずっと、ランチする時はスマホを見ながらだったな。何もしないでただ食べるなんて、本当に久しぶり。

ふと「今日のスマホがない1日を、書いて残したいな」と思い立つ。いつもなら、思い立ったらスマホのメモにすぐに書き留めておくけれど、今日は何もないので、頭で覚えておいて、食べ終わったらすぐにパソコンで書かなくては。

カレー丼、美味しいな。最近、コワーキングスペースを変えたんだけど、ここのお店の丼は身体に優しそうな上、いつも美味しくて、変えて良かったと改めて思う。

お店の人にご馳走様でしたと伝え、食器を返してデスクに戻る。

さて、忘れないうちに、スマホを忘れた1日を書き残しておこう。Googleドキュメントを開いて、最初の文章を打ち込む。

「スマホを家に忘れてしまった。」

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