Food history

箸だけ使うのは日本独特?知っておきたい日本の箸文化と歴史

黒いお皿に乗せられた箸

日本で生まれ育つと、箸で食事をすることは当たり前、と言えるでしょう。もちろん、昔と比べると食は多様化し、箸ではなくカトラリーを使う機会も増えていますが、それでも、箸は特別。

子供の頃、親に持ち方を教えてもらう。大人になっても、使い方のマナーがたびたび話題になる。日本人にとって、箸は何だか特別な存在だと思うのです。

箸には、日本独自の神道・仏教精神が宿っており、それが種類や使い方にも反映されています。

ここでは、箸の歴史と、日本に伝わる箸のしきたりについて紹介していきます。

箸の種類や用途についてはこちらにまとめてあります!
神様と一緒に食べる箸って?多様な日本の箸の種類を徹底解説!



箸の誕生

白飯が入ったお茶碗と箸

箸の始まりは、中国。今から約3,600年前に栄えた殷王朝の遺跡で見つかった、青銅製のものが最も古いとされています。

この箸は、日常使いのものではなく、神様に食物を供える儀式用のものでした。

日本に箸が伝来したのは、弥生時代。こちらも、天皇が新嘗祭で穀物を供えるための「神器」として使われたのが最初のようです。

その形は日本独特で、今のような2本の棒状の箸ではなく、竹で作られたピンセット状の折箸でした。

「魏志倭人伝」によると、当時の日本は手で食事を取っていたという記録があります。

箸が食事に使われるようになるのは飛鳥時代からです。

きっかけは、中国へ渡航した遣隋使が、食事の際に箸でもてなしを受けたこと。聖徳太子は、隋の使節団が来日した際も、同様に箸を使った食事でもてなしたのです。

これをきっかけに、貴族の間では、箸と匙を縦に置く中国式のスタイルが広がっていきました。

その後、土器や木製の器を使っていた庶民の間で、今と同様に箸だけを使うスタイルが広がっていきます。

日本独自の箸文化

精進料理のお膳に乗せられた箸

日本独自の箸文化が本格的に形成されていったのは、平安時代以降。

弘法大師(空海)が「箸文化には仏教的な意義がある」という教えを広めたことで、箸で食事をすることが定着していったと言われています。

弘法大師については、食事に使った箸を地面に立てたら杉の大木に成長した「箸立伝説」や、金毘羅大権現からのお告げを受けて開創した「箸蔵寺」など、箸にまつわるエピソードが有名です。

鎌倉時代には、中国から伝わった精進料理が、日本オリジナルのものとして発展していきます。

精進料理から生まれた野菜や大豆の調理方法、食事作法などは、その後の和食文化の基礎となりました。

この食文化の変遷の中で、平安時代に貴族の間で使われていた匙は取り分けのためのものとなり、「食事に使われるのは箸だけ」という日本独自のスタイルが確立されます。

ここから、箸は「はさむ」「ほぐす」「つまむ」「切る」など、様々な用途を担うことになります。

これには、野菜を多く使い、煮込み料理が発展した、この時代の調理方法が大きく関係していると言えるでしょう。

割り箸の誕生

三組の割り箸

時が流れ、江戸時代になると、「割り箸」が誕生します。

最初に割り箸を使い始めたのは、江戸や大阪の鰻屋と言われています。

江戸時代には外食文化が誕生し、屋台や飲食店で多くの人が食事を楽しみました。鰻も、寿司や蕎麦、天麩羅と並び、人気の外食メニューだったのです。

使い捨ての箸は衛生的で、洗う手間も省けます。また、割り箸にすることで、未使用の箸と使用済みの箸が一目で区別できるため、効率的です。

今ではすっかり定着し、当たり前になっている割り箸ですが、誕生したばかりの頃はかなり画期的なものだったはず。きっと大きな話題になったのではないか、と勝手に想像しています。

中国・韓国と日本の箸文化の違い

韓国の金属製箸と匙

ここで、箸を主に使うご近所の国、中国や韓国の食事スタイルと、日本の食事スタイルを比較してみましょう。

前述したように、中国・韓国では、箸と匙を右横に縦でセットします。

ちなみに、他のアジア各国でも、箸と一緒にレンゲなどの「すくう」道具がセットで使われることがほとんどです。

また、中国や韓国の食事は大皿から取り分けるスタイルで、個人で使う匙や箸、取り皿などに自分専用のものはありません。器は手に持たず、卓に置いたまま食事します。

一方、日本(和食)では、箸のみを横向き、手前にセットします。今は匙(スプーン)を個人で使うこともありますが、もともと和食において匙は個人で使わず、箸のみです。

また、日本の食事は、あらかじめ個々に盛り付けて出される「銘々膳」スタイルで、個人で使う箸やお茶碗、湯呑みなどは自分専用のものを使う場合が多いです。器は手に持ち、口に近づけて食事します。

銘々膳の料理は、大皿ではなく小さな器に盛り付けるため、あらかじめ適度な大きさで調理されており、箸で食べやすいものが多いです。

また、器を手に持ち口に近づける食べ方のため、汁物や柔らかい食べ物でも箸だけで事足ります。

銘々膳や、自分専用の器を手に持ち食べるスタイルは、日本独自の文化です。

このように、食事のスタイルと箸の文化は、切っても切れない関係にあります。

神人共食〜神様と人間を繋ぐ箸〜

お節料理と両口箸

日本の伝統的な行事でまず浮かぶのは「五節句」です。

五節句とは、「人日(1月7日)」「上巳(3月3日)」「端午(5月5日)」「七夕(7月7日)」「重陽(9月9日)」の5つの節句のこと。厄を払うための大切な行事で、神様に食事をお供えし、それを一緒に食します。

※五節句については、別の記事で詳しく紹介していきます。

ここで使うのが、「両口箸」です。片方は神様が、もう片方は人間が使う、という考え方から、箸の両側がどちらも細くなっています。

このように、神様と人間が同じ箸で一緒に食事をすることを「神人共食」と言います。箸が、神様と人間を結ぶ、大切な役割を担っていたことがわかりますよね。

また、日本独特のスタイルである「箸の横置き」ですが、これは神様と人間の間の結界、線引きを意味すると言われています。

箸を手に取ることで結界がとけ、神の恵みである食事をいただける、という考え方には、神様や自然の恵みへの感謝の気持ちが表れています。

ちなみに、正月は五節句に入りませんが、日本人にとって最も大切な日です。正月の朝、新調した両口箸(祝い箸)を使う家庭も多いのではないでしょうか。正月も五節句と同様に、新しい1年を健やかに過ごせるようにと願いながら、神様と一緒に食事をします。

いかがでしたか?

本当は、この記事で箸の種類や使い方についても触れたかったのですが、長くなり過ぎてしまうので、最初に紹介したこちらでまとめています(こちらの記事も長くなっております)。

箸の歴史を知るだけでも、日本の食文化や、独特の神道・仏教精神の一端を見ることができ、面白いですよね。

普段箸をセットする時、お正月に家族と食事をする時、ふとこんな話を思い出していただけると嬉しく思います!

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